トウスプリングの設定

 トウスプリングの重要性は、靴設計者では常識であり認識しているが、明確なことになるとあいまいになりやすい。製靴技術は昔から感覚的に処理されることが多く、トウスプリングについては、根拠もなしに“小指一本”と言うような表現で、当たり前のこととして、それ以上に問い正すことなく、一般靴業界の常とされてきた。しかし、これらの規定は、従来からのベテランに限りわかることであり、これから勉学する初心者や部外者にはわからない。

 

 ところで、トウスプリングの役割を考えてみる。

 歩行に対して、片足を空中に上げて一歩前進しようとする。その時の地面にある足は、地面を後方にけり出すようにしてかかと部分が上昇してくる。当然に足が屈折すると同時に靴も屈折させられてくる(UB部)。そして、靴の先端が地面に接地する。それからけり出す力が靴をへて地面に伝わり、反動的に足が動きやすくなる。

 

 大切なことは、足で地面をけり、かかとが上昇して、足つま先が地面から離れる瞬間の靴の形状である。靴が必要以上に屈折されて、同部に靴の屈折部(UB)に大きいしわが出過ぎるようでは、トウスプリングが少ない状態を意味している。

 反対に靴の爪先が地面に着地していない場合や、UB部の屈折がない場合は、足のけりが後方に逃げることになり、歩行力のロスになる。靴の屈折に無理がかからず、地面をける力が適切にかけられる所が、トウスプリングの設定ポイントである。

 

 靴の種類、履く人の足型、履きくせなどにより一定のものではない。“小指一本”などの表現で決まることではない。様々な実験値を収集して、基準数値を定めることが必要である。その後に、基準数値をもとにして各条件に対応させる。

 以下、トウスプリングを(T)とする。

 

A. 靴の大小。当然にして靴が大きい場合は(T)も大きくなる。

B. 形状調整寸法が長い場合は、(T)を大きくする。

C. かかと(ヒール)の高低。低いものが(T)が大きく、かかとが高いものほど、(T)が小さい。

D. 靴の硬軟。硬く返りの悪い靴は(T)を大きくする。

E. かかとの密着度、強いものは(T)を大きくする。下駄のようにかかとが離れるものは小さい。

 

 このような条件を考慮して定めることになる。

 基本値が明確であれば、誰でも比較的容易にトウスプリングを設定できるが、基本値の設定は実験値を伴うものである。

 単純に外国製品のトウスプリングをまねしたとしても、色々の条件が異なることであり、適用できるとは限らない。根拠を度外視したまねは好ましくない。

 

 通常、量産靴には各サイズがあり、上記の条件を考慮すれば、トウスプリングはサイズごとに異なるべきである。それはごくわずかの寸法差ではあるが、規定値表はある方が良い。設計値を明確にして第三者にもわかる仕組みで行なうのが、工学的技術というものである。

 

 足に合わせた靴型の設計工作、手製靴のヒール革積み上げ設計、一般の既製靴型の測定、などなど、靴を評価する上で、不可欠な規定条件の中にトウスプリングがある。この規定があいまいであれば、靴に対する明確な評価は不可能である。

 測定を行わない感覚的技術の現状は、これからの勉学者には不利な状況である。靴の設計図を作る必要性は歴然となってくる。

 

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、 編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

<引用文献>

各務房男,「作業分析 トウスプリングの設定」,第4版52頁.

 

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない