靴の見方

はじめに

  靴作りの内容については多種多様であり、一概に言えるものではない。

ここに記す事項は初歩的な一部を抜粋したものである。

 

靴の見方 A

 

 『よい靴とはどんな靴か』という問いに対し、完全な回答をあたえることは容易なことではない。

 これまでにも多くの人々によって論じられてきた問題ではあるが、いまだにこれに関する定義、定説は確立されていないのが現状である。

 しかし、昨今消費者の靴に対する関心はふかく、履きよい靴をもとめる声が高まっている。

 そこで、よりよい靴という内容を明確にし、選択肢の一つにすることを提供する。

 

 ここによい靴とはどのような条件を備えているものか、多方面から観察してみることにする。

 

 一般に靴のアッパー(甲革)は表材と裏材とからなり、これに使われる材料は、天然皮革、人工皮革、布類などがある。

 

*靴に適する材料として、

1.歩行により繰り返される屈曲に耐えられること(柔軟性、屈曲強度)

2.足を入れたとき足当たりが良く、素直になじんでくれること(感触性、順応性)

3.脱いだとき元通りの形にもどってくれること(復元性、弾力性)など

 

 その性質が順応性に富み、足当たりがやわらかく、復元性も大きいことが要求される。そのためには組織が綿密でうすく、感触性がしなやかなものが望ましい。このような材料は足と靴との形や、寸法のズレをカバーしてくれる。

 とくに既製靴では、この点が大切で、昔から使われてきた天然皮革は、じつに素晴らしい適性を有している材料である。

 

 ひとくちに天然皮革といっても、素材、なめし方、表面の仕上げ方法などにより、細分すると多くの種類がある。

 

*表革について

 靴を外部から見る場合、一番はじめに目につくのが表革である。

 

 材料として一般にもっとも多用されているのが牛革であるが、これは牛の大きさ(年齢別)、性別、表面の質や肌合いなどにより数段階の種別、等級がある。

 

 種類として、カーフ(生後6ヶ月頃までの仔牛の革)が高級とされる。次いでキップ、地生(国内原皮)、カウ、ステアなどがあり、各々なめし方や銀面の状態によりさらに1、2、3級というように仕分けられている。

 

 牛革以外の天然皮革では、ゴート(山羊革)、キッド(仔山羊革)、ピッグスキン(豚革)、カンガルー、コードバン(馬尻革)、ワニ、トカゲ、その他の爬虫類が使われている。

 

 俗にいう高級品として扱われているものは、その本質から次の二つに分けることができる。

1.靴のための機能を特別に有しているわけではないが、表面の柄や模様のおもしろさ、

  あるいは希少価値が珍重される革(主として爬虫類)

2.靴の表革材として理想的な機能性を有している革(キッド、カーフなど)

 

 また、これらの各種天然皮革は、原皮をなめしてから加工、仕上げられるが、表面の状態により銀のあるもの、ないもの、起毛したもの(表面と裏面)、表面を塗装加工したもの、紐状にして編み上げたものなどがある。これらは単に外見上だけでなく、質としてもそれぞれの特徴を持っている。

 

 このように多種多様にわたる天然皮革の表革材料は、靴の種類、用途、目的、デザイン、価格などにより適材適所に使い分けられる。

 よい靴の材料となると、キッドやカーフは高度の機能を有しており、単に表面の美しさというよりは材質のよさが高く評価されている。

 

 靴の表革を見る場合、表面的な色彩、デザイン、ミシンの糸目などが重視されがちである。しかし、靴本来の機能からみると、せっかくのすぐれた材料が、製靴工程でいじめられたり、殺されたりしていないかを調べることも大切である。

 例えば、作業上の過度な熱処理、ダブラーやその他の異なる物質の貼りあわせなどにより、高級素材の味を消してはならない。

 

 人工皮革は天然皮革と比べ、順応性が少なく復元性はきわめて強い。そのために購入時に靴が足にあわないと、長期間履いても足にはなじみにくい。反対に、足にあっていれば、復元性の強さが長所となって型くずれのない靴になり、いつまでも新しい感触が保てることになる(人工皮革の作業は、天然皮革の作業よりも正確な条件が要求される)。

 

 実際の革の良否は専門家でも判断の難しいものであり、一般には感覚的に外観で見るより術がない。ただし年数がたつと油がぬけて弱くなる。

 

*裏革について

 靴の種類により、表革だけのもの(裏革のない靴)もある。

 裏革は一般に表革を補強し、伸びを防ぎ、足当たりを良くするために使われる。

 

 足に直接当たる部分であり、裏革の機能としては、しなやかで肌触りがよいこと、通気性、吸俳湿性にすぐれ、適当な密着性を有すること、色落ちしないことなどが必要とされる。

 材種では豚革、馬革、羊革などが多い。

 足に直接当たる部分だけに、凹凸があると足を痛めやすい。しわになったり、突っ張ったりしないように仕立てられていることが大切であり、靴の中に手を入れ凹凸のないことを確かめたい。

 踵(かかと)内部にあるすべり止め革の浮きも、注意して見るようにする(はがれると弱くなる)。

 

*中敷について

 紳士靴では中底の後方に、半敷き、または踵敷きをもちいることが多い。婦人靴では通常全敷きになる(中底面にある凹凸を覆い平坦にする)。

 

 中敷の材料は、高級品では裏革と同材が使われ、一般には一定の色と材種を中底型に合わせてカットしたものを使うことが多い。

 

 機能としては、靴の内部を清潔に保ち、中底にある凹凸やザラつきを覆い、足当たりをよくする目的を持っている。従って、通気性、吸排湿性に富み、足の汚れを吸収しやすい材質がよく、靴の中で足が滑りすぎないために、適当な摩擦性も考慮することが大切である。

 また、中敷が中底から浮きあがることなく、密着して貼られていてしわのないこと。もし、中敷中央部に浮きがあると、そこに圧がかかり中敷が取れやすくなる。また、中敷が動くような場合は、足の力が逃げ、疲れやすい靴になる。

 靴の性能からみると、中敷は足が滑らない素材の方がよい。ただし汚れやすくなり、見た目に影響する。

 

*本底について。

 本底は、材料により革底、合成底、スポンジ底などに区分される。

 革底の中には硬くて丈夫な渋製と、フレキシブルなソフト底などがある。

 合成底には、セメンテット製法による板状の合成ゴムと、VP(vulcanizing process)製法による加硫ゴム、インジェクト製法によるPVC(塩化ビニル)底などがある。

 特にセメンテット製法によるコバ出しのものでは、細革を貼り付けたものと、モールド(成型)されたものとがある。貼り付け細革では貼り付け強度をみる。

 

 本底に関する検査では、材質試験と剥離試験がある。

 いずれも店頭で簡単に行うことはできないが、外見からの調べ方では、底部外郭線の接着状態と、空間部の有無を注意してみるようにする。

 接着の本底では、剥離が最大の問題である。本底面に凹凸のあるものは接着面が均等でないことを意味しており、接着力が弱い。

 また、シャンクの入っている部分、特に先端部に凸のでているものは危険がある。

 

*ヒールについて

 材質は木、プラスチック、革積みがある。外見からは形、大きさ、取り付け方が問題になる。

 

 簡単な調べ方としては、ヒールのワン型と、甲革が釣り込まれた底部の形と大きさが合致しているかどうかである。

 

 また、ヒールが中底に完全に固定されているかどうかを確かめる。軽く前後に押してみて、動く気配があってならない。

 ヒールがゆるむ原因は、留め方が不適切なもの、中底の材質が弱く釘の利きが悪いもの、ヒールワン部の形が不適当なため本体とヒール面との間に空間が生じ固定が不完全なものなどがある。いずれもヒールが不安定な固定状態となる。

 

 ヒール巻き革をする場合には、トップリフトはヒール本体より若干大きくできているのがよい。

 

*月型、先芯について

 月型(カウンター)と先芯は共に表革と裏革の間に入れられるものである(月型は踵側、先芯はつま先)。

 通常は外から見ることができず、どんな材料が使用されているのかは作者に聞くしかない。

 

 月型には、床革、ヌメ革(銀付き)など天然皮革のものと、レザーボード、ファイバー、合成材、溶剤タイプのものなどがあり、それぞれに特徴がある。

 

 先芯には、合成品、天然皮革、布類も使われる。どんな材種が、どんな形で、どのように入れられているか、が見どころとなる。

 

 外から見る場合には、縁がだんだんと薄く先端は厚さを感じないようにできているのがよい。月型と先芯の外郭境界線が明確に判断できるようなものは、外観がわるいばかりでなく、境界部分にしわが出やすい。

 

 月型は外側より内側に長く入り、硬く強いことが望ましい。ただし、紳士ローヒール靴では内外が同等であっても支障はない。

 

*中底について

 中底は靴の背骨といわれる重要な部品であるが、外見から良否はわかりにくく、調べることも困難である。

 

 足を入れたときに中足骨の元に当たる位置を押してみて、しっかりしている必要がある。特に中底を押してみて、トップラインが動くようでは感心しない。

 

 中底の良否は中底の作りや材質にもあるが、足型の形状に合っていることが重要となる。

 

 以上、靴用材に関して、表面からみる状態を簡単に説明した。

 

 

■靴の見方Bに続く >>

News

■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない