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靴の見方 B

 

 次に、靴の機能面からよい靴の見方を説明する。

 

 一般には、『座りのよい靴』がよいとされてきた。靴を平面に置いた場合に、ただちに静止するような靴がよく、いつまでも揺れ動くようではよくない。

 

 以下に記すことは、履きやすい靴、型崩れのないよい条件である。

 

*接地位置が適切であるか

 平面に対して、足の踏み付け位置と靴の接地位置が合致していると、体重が無理なく地面にかけられる。

 

 足の接地部の代表点はOOであり、個人差がある。既製靴では、まずこの接地点からみていくことになる。

 靴の接地部は、平面上に靴を置けば一目瞭然である。たとえば、底面に着色して置けば簡単に接地部分が判明する。足と靴とでこの接地部分が合致していることが大切な要素である。

 

 

 

*トウスプリング寸法が妥当であるか

 本来は足の爪先部分でみるが、ここでは便宜上、靴の先端部でみることにする。

 

 現在の靴では4mm~15mm位にあるが、靴により一定ではない。

 下記は、トウスプリングの設定要因である。これらに基づき考慮すべきもので、単なる数値で処理することは好ましくない(小指1本分などと聞くが、そのようものではなく、機能との関係が深くおろそかにはできないところである)。

 

 トウスプリング設定条件は、

 

靴の大小(サイズ):大がトウスプリングが高い

爪先余裕の長短  :長が   〃    高い

ヒールの高低   :低が   〃    高い

靴の硬軟     :硬が   〃    高い

足首固定の有無  :有が   〃    高い

歩行円の大小   :小が   〃    高い

 

 このような状態をみて定めるものである。機能性に関するものであるが、関心は低く、正確に規定している事業所は少ない。

 

(補足:爪先余裕とは、靴の中で足のつま先より先にある余裕分のこと。必要な前方余裕に加え、靴の爪先を形作る形状調整寸法を含む。歩行円の大小とは、脚の付け根から地面までの距離を半径とする歩行時に現れる円弧のこと。個人の腰の高さなどによる)

 

 

*ヒール高さに対するヒール面の角度

 高さと角度が適切であるか、この問題はヒールが高くなる程重要なことになる。

 

 踵面の傾斜が急すぎれば、足は前方にすべり、爪先が当たり痛むかもしれない。また踵面が平らであれば、足の屈折が強くなり、ヒールあご部(ヒールの前方)の押しあげが生じて、これもまた足を痛めるかもしれない。

 

 適性でない条件は履きやすいことにはならない。

 店頭員にはわからないことであり、実際の消費者が慎重に考慮すべき問題である。

 

*トップリフトが平面に密着しているか

 靴を平面に置いたとき、ヒールのトップリフト全面が地面に着いていることがよいとされる。特に、面積の大きなトップリフトの前方部分に空間がある場合は欠点が出る(トップラインの変形と足との不密着)。

 

*ヒールの重心について

 俗にいうヒールの蹴り、ヒールの倒れなど、体重のかかるヒールの重心がずれていることはよくない。体重が掛かると、ヒール接地面が滑りやすく、また、ヒールが倒れて取れやすくなる。当然に不安定になり歩きにくく、危険も生じてくる。

 

 ヒールの芯が通らないと、体重を掛ける時間が少なくなり、急ぎ足で膝がまがり姿勢がわるくなる。

 

 (ヒール重心をかなりうしろにした)セットバックのヒールもあるが、度がすぎると機能が落ちる。

 ヒールの重心が通らないものは、坂道の上りも下りも危険である。

 

*ヒールカーブが適切か(VV線角度)

 この角度も正確に測定できるものではなく、踵囲と同調して足に合うか、合わないかの問題になるところである。合わないと足を痛めるか、すっぽ抜けで非常に履きにくく疲れやすいことになる。足との関係でみるところで、外観だけでは判断できない。

 

 また、靴を後方からみて、ヒールが横倒れのものは危険である。つまり、靴が平面に対して安定していない状態である。踵後方のミシン縫い割り線の倒れも注意してみたい。

 

*踵上部の深さは適切か

 踵の一番うしろの深さを、靴の内部で直線的に測る。この寸法を何mmにするかということであるが、第一に足の形状寸法から、第二は靴のスタイルによるバランスから設定される。

 もちろん足の寸法と機能が重視されるわけで、足首を後に傾けたり、踵を引き上げたときアキレス腱部を圧迫せず、歩行中に脱げ落ちない深さが最適である。

 

 深さの規定はメーカーにより様々であるが、ヒールは低いものほど深く、ヒールが高くなるほど浅くする(婦人靴23㎝サイズの深さの基準は51mm位だが、ヒールの高さや靴の種類などにより一定ではない)。  

 

*踝(くるぶし)に対するトップラインの高さは適切か

 踝の下側に靴のトップラインが当たると痛むことが多い。踝の高さは個人差のあるところで、踝の低い人は当たる靴が多い。

 

 既製靴ではスタイル重視になりやすく、踝の低い足の場合は注意が必要になる。

 近年は靴設計者も若くなり、スタイル、デザインは自由に面白いものが存在してきた。その反面、従来からの規定値のような認識は少なく、無視されることもある。

 

*靴底にねじれがあってはならない

 靴を平面に置き前方からみる。踏み付け部分の本底の左右の浮き上がり(地面からの寸法)が妥当であるかをみる。

 内外で同高か、外の方の浮き上がりが少し大きいことがよい。

 

 次に、踵ヒール面の接地状態を見る、ねじれがあるか、倒れになっていないかを観察する。ねじれがあると履きにくいのは当然であるが、靴のしわ、損傷も生じやすい。見た目もわるく好ましくない。

 

 

 ここまでは、靴を外見的に材料、形、寸法、組立ての角度から見てきたが、これらのすべてが合格したとしても、本髄となる条件の「足」と合っていなくては無に等しいことになる。

 両者の適合度を最も左右するものは、靴内部の形状定規である「靴型」に負うところが大きい。

 

 第一に大切なことは、足裏型が靴中底型とよく合っているかどうか、ということである。

 踏まずの長さを始めとして、内踏まずのアーチ、踵の面積と形などの合い具合をみたいが簡単には判定できず、感覚的に観察することになる。

 

 足を靴に入れたとき、靴内の空気が抜ける音がするような状態は、好ましいものと思える(空気の流動、ふいご作用が行われ足が蒸れない)。

 

 左足、右足と別々に踵で立ち、また、接地点(踏み付け部)で立ち、爪先部で立って見る。十分に体重が掛けていられるか、ふらつかずに安定した姿勢が保てることが重要である。

 

 歩行に対しては、靴の中で移動する足の状態を考察する。

 足が前方に移動したとき、指先が当たらないこと、反対に足が後方に移動したとき、踵後方の圧力が強すぎないこと、甲囲に対してほどよい密着感があり、窮屈でないことなど、歩いて確かめてみることが肝心である。

 

 

 機能といえば、成長期にある子供のための靴が最も放置されている。

 子供靴は大人靴より小さい。ゆえに同じ材料で作れば非常にかたい靴になる。子供は歩行円も小さく、体重も軽い、つまり子供靴は大人靴より柔らかく、弾力があり、軽いことが必要である。

 そのためには、現在のように大人靴の残り材料で作るのではなく、子供専用の材料から開発して使うことが望ましい。

 

 甲部のデザインも、靴の機能に大きな影響をあたえる。日常履きの靴が、流行にとらわれて機能を無視されると危険である。特に、子供靴には、機能優先で取り組みたい。

 

 

 

 よい靴の要点をまとめてみると、

 ・足との適合

・よい材料と部品

・よい靴型

・よい組み立て

 であり、また美的要素(デザイン)も無視できないものである。

 

 既製靴は少ない分類で、多くの足に合わせようとしているために、足と靴との間には若干の無理、矛盾は承知で行っているところがある。それでも、違和感の出る限界を理解して作るべきである。

 最も大切なことは、足の重視であり、すべては足から出発することである。

 

 

所感

 靴の良し悪しを見るとき、できばえを外観上から見るとともに、その靴と足との対応を見ることになる(材料については、外見による良否の判別は専門家でも難しい)。

 

 靴の見方を正規に説明するには、足型計測から靴型設計&工作、靴型表面から基本展開、型紙作成をへて、製甲、底付け、仕上げ、付帯事項にわたるすべての内容を網羅して観察することが必要である。

 

 履き心地については、実際に履いてみることにより、ある程度は納得できるものである。しかし、正確にはいかず、感覚的に足に感じる範囲に過ぎない。詳細は、足型計測値と靴型測定値を照合してみる必要がある。

 

 今日、足型計測が盛んであるが、足型計測値は山積しても、対比して見る靴側には何の数値もない(靴型測定の認識と習慣ないことが原因である)。

 

 従って、靴が足に合っているかどうかを調べるには、靴に足を入れて前方の余裕寸法(捨て寸)と踵後方に余裕があるかをみる、甲部を手でおさえ、アッパーの張りぐあいをみる、踏まず部分の感触を聞くなどの確認方法しかない。非常に難しいことが現在も行われている。

 

 一番問題なのは、足型計測数値の無意味なことである。靴(靴型)測定数値と対比して進めば、いつかは足合わせの技術も進歩すると思われるが、その流れはなく残念なことである。

 

 靴作りは昔から個人の頭脳内技術であり、第三者にはわかりにくい、明快な説明が困難な技術であった。そのためにすべての行為が、数値のない外見的で感覚的なものである。

 

 近年は足の知識、パソコン処理による足型計測など、靴業界外部からの数値的情報も入りつつあるが、製靴技術が感覚的であるために、数値と噛み合わず、導入に手こずっているのが現状である。

 

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、 編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

<引用文献>各務房男,「靴の見方」,第3版28頁

 

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない