アパレル型紙と靴用型紙

 靴業界一般の型紙作成技術を見る時、アパレル移行の技術が多いように思う。

 しかしながら、衣服の型紙と靴用の型紙では、根底から異なる所があり、同一視出来ない部分が多々ある。

 衣服と靴との関係は、消費の上ではファッション&流行などでは、一心同体的に密接な関係にあり、外観の共有協力は認める。しかし、靴用型紙は、人体との間に空間のある衣服の型紙とは、設計&工作の内容は全く異なる事で、混同視してはならない。

 ここでは、衣服と靴の型紙について、個々に考察してみる。

 

--------------- アパレルの場合

 両者の発生時点は定かでないが、業界規模ではアパレル産業が大きく、技術関係の研究学者&担当者も多く、設計レベルも一歩前進しているようである。

 

 例えば、CAD&CAMの設備にしても、ミシンなど生産機器にも大掛かりな開発がある。また、教育施設も広大に普及し、職業的にも発達している。技術的教本や書物も多く、宣伝報道は世界的規模にして小売店量は膨大なものである。

 

 設計関連については、人体計測も盛んであり、サイズ分類も進んでいる。人体計測は直立姿勢が通常であり、衣服の姿勢も通常は直立である。腕や脚の曲がった衣服は稀である。

 

 人体との密着度を見てみる。

 衣服の合わせ方は、首筋と肩部がポイントで、他部は布が釣り下がっている状態が多く、人体との間には空間の余裕分がある。

 また、布は柔軟性に富み、必要に応じて、密着の調整は、ボタンやバンドや紐などにより、許容度は大きく容易である。

 

 着用評価の対象は、直立時のスタイル&好みが重視される。

 着用人体は、布の柔らかさと空間余裕分と調節機構で、姿勢の変化は自由である。姿勢変化時に出る衣服の皺は“悪評価”の対象にはならない。外観重視の主なる事が分かる。

 

 生産工程では、製反物の布は平坦であり、材質&型状が均一であるために、皮革と比べて生産操作が容易である。

 型紙の外郭線を縫合して立体の服状を作る。布は平面と曲面の構成で、球面部分は少ない。つまり、布材に伸縮の圧力を掛ける事も稀である。

 

 人体の左右は対称型である。空間を含んだ衣服の型紙設計は、人体の面に合わせる所は少ない。型紙外郭線を調整&変化して、それを組み立てる事が通常作業になる。例えば、人体計測の数値を聞いて、衣服に反映させるには、それに対応する外郭線の位置で、調整・変化させることになる。

 元になる型紙原型は重要な存在であり、その作成技術は、何々式の名称で台頭している。

 

--------------- 靴の場合

 製靴業界の規模はアパレル業界とは比較できないほど小規模である。

 CAD&CAMなどのパソコンソフト,工作機器などは、アパレル業界から生まれた製品を靴用にアレンジし変化した物が多い。

 感覚的靴技術は、第三者の理解・参画が難しく非公開的性格が強く、団体的研究も困難な技術である。当然にしてソフト技術者への伝達も不十分であり、パソコンソフトは、他産業種のアレンジか、ソフト技術者独作で、靴本来の技術とは異なる物が多い。

 

 靴は、骨張った足に密着して合わせる。

 靴材料は硬く変化の自由度は少ない。

 密着対象になる足は、千差万別にして、さらにヒールの高さも一定ではない。その上、靴底には体重が掛り、歩行による屈曲を繰り返す。

 衣服の条件とは、根底から異なる難しさである。アパレルの合わせ方では通用しない。

 

 一般的な靴用型紙の作成方法は、いくつかある。

 二つ折り紙の内外対称型にした型紙。または甲部の方は内外対称で、底面外郭線部分だけ内外比のある型紙。または任意の線型&寸法指定で製図を描くような構成型紙。そして、パソコン処理のワンタッチで外側型紙から内側型紙が計算される型紙などがある。

 しかし、いずれも、靴型表面を測定しておらず、靴用型紙としては不正確である。

 

 平面状の皮革を立体である靴型に密着させるためには、型紙の大きい部分をマイナス処理して寄せ縮め、型紙の小さい部分はプラス処理して引き伸ばされて、靴型表面に密着させられる。この操作が靴独特の“釣り込み”である。

 

 皮革には復元性と可塑性があり、復元性が強く働くと、変型を生じる事になる。例えば、靴型表面に合わない型紙アッパーを、強く引っ張り靴型に貼り付けると、靴型除去後に材の復元性が働き、靴は変型を起こし崩れてしまう。

 また、靴型表面と合わない型紙(靴型表面上の線寸法と、同部位の型紙線上の寸法が合わない場合)は、デザイン線が合わず、靴型に合わせるために無理にひっぱるなどして釣り込みの力量にむらが出て、これも変型の要因になる。これらは、悪い型紙の例である。

 

 型紙の使命は、使用材の表面型状と大きさを表す物であり、材料の裁断に使用すると共に、ハトメ穴などの指示書となることである。しかし、靴型表面の寸法合致だけが万全ではない。

 

 凹凸の激しい靴型表面に厚い材料が被れば、資材の表面は靴型表面と異なる事になる。凸部分では、資材の表面は靴型表面より大きくなる。反対に凹部分では小さくなる。

 型紙の使命からも、この差額の処理は、型紙に含まれるべき内容である。

 

 また、立体である靴型表面と、平面状の型紙では、必然的に異なる所が生じている。そして、靴型より大きい部分は、釣り込みで寄せ縮め、小さい部分は引き伸ばして、靴型表面に合致させる訳であり、そのプラス、マイナスの位置、方向、分量の表示があるべきである。そのような、釣り込みの手加減の分かる指示書となる型紙が、良い型紙である。

 

 

 靴用型紙技術は、アパレル系技術とは根底から異なる技術であるので、混合視してはならない。

 

 一般産業技術は、パソコンの出現と共に発展したが、乗り遅れた靴技術は、いまだに昔のままの感覚的技術で推移している。感覚に固着した現ベテラン技術者の責任は大きい。

 

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、 編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

<引用文献>

各務房男,「アパレル型紙と靴用型紙 型紙作成技術の根元」,第11版54頁.

各務房男,「靴用&アッパー型紙技術の実務 アパレル型紙との差異」,第15版39頁.

各務房男,「靴用型紙の精度の検査 アパレル型紙との差異」,第16版60頁.

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない