感覚的技術と工学的技術の違いを、型紙を作る作業を例に挙げて説明する。
感覚的技術では、まず、靴型に薄材(紙やテープ)を貼り付ける事が多い。
その薄材の表面にデザインを描いたら、デザイン線の区分ごとに薄材をカットし剥離して、平面状に伸ばして紙上に貼り付ける。このときに、どこをどのように伸ばして貼り付けるのかは曖昧で、人それぞれの感覚で行われている。
靴型表面は立体であるが、できた型紙は平面であり、必然的に両者には差異が生じている。このことは、型紙作成においては重要項目である。しかし、その項目はあまり重視されずに、また材料の厚みの考慮もされないままに、型紙は仕上げられるのである。
このように、作業全般が感覚的に行われているため、個人差は大きく、不正確になりやすく、記録をとる事も難しい。
一方、かがみ式の工学的処理では、まず靴型表面に基線を配列する、配列の仕方には決まりがあり、線の本数も決まっている。各線の長さは測っておく。ここまで、誰の手でも同様にできる。
次にデザインの絵を描く。そして、立体から平面への移行で生じる差異や、材料の厚みなどを考慮する。計算数値を用いてパソコン処理し、スピーディーに正確な型紙を作成することができる。そのような専用ソフトをかがみ式では開発している。
もう一つ、かがみ式では、晒布硬化(さらしふこうか)の方法がある。
それは、靴型表面に薄紙などの平面材でなく、晒布(さらしふ)を巻きつけ密着させて硬化する方法である。
硬化させた布の上にデザインを描き、その線をカットして布片を剥がす。するとその布片は立体の形のままである。
それを平面の型紙にするために切込みを入れることになるが、かがみ式では、その切込みの入れ方を重要視している。型紙の優劣をもっとも大きく左右する内容だからである。後の釣込み作業で確実に靴型表面の形に戻されるように内容を確認し、納得できる内容で、切込みを入れ、切り線を開いたり、閉じて重ねたりするのである。
一般の型紙作成方法では、この内容が難解であり、ほとんど無視されている。
詳しい方法はここでは省くが、このようにして平面状に展開したあとは、革の厚み、硬さ、伸び質、靴に入れられる芯材の厚み、などを考慮して型紙原型が完成する。
この方法は、平面材を貼りつけるよりも抜群の合致性があり、靴型表面を曲面、球面として捉える精度は最高のものである。
以上、感覚的製靴技術と工学的製靴技術の違いを、型紙作成を例に挙げて説明してきた。
このように靴型表面を工学的に処理して型紙を作成する技術は、原理原則に沿って納得できる技術であり、分かりやすく、誰にでも評価が可能なものである。
(この文章は、各務房男が執筆した論文を、 編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)
<引用文献>
各務房男,「ベテラン技術者の作業を分析する 工学的技術と対比して考える」,第21版47頁.
各務房男,「かがみ式 晒し布硬化」,第1版1頁.