製甲(アッパー)の製作工程について

 製靴技術は、昔から大きく区分して、靴型、製甲、底付けとあり、裁断、仕上げが付帯事項のようにしてある。なお、特殊なものとして型紙があり、製甲に近い所に存在する。

 

 製靴技術の一般的大区分は、製甲、底付けであり、確実に独立した状態は靴型である。

 

 昔の靴部品(中底、本底、月型先芯など)は、底付け部門が担当したが、今日では外注依存で、底付け部門が担当するのは、組み立ての業務だけである。

 

 製法の機械類を見ると、底付け部門の機械が圧倒的に発達し、多様に使われている。製甲部門も、パソコン制御のミシンを主体に発展しているが、底付け機械ほどではなく、一般的には昔に近い状態である。

 

製甲の手順を追いながら、作業のポイントを解説する。

 

 まず、革を裁断する。一足単位であら裁ちをする。その際は本断ち線より3mm位の余裕を見る。

 

 本断ちは線通りに裁断する。

   革の上に型紙を置き、周囲をなぞって線を描き、型紙を外して線上を裁断する。もしくは、革の上に型紙を置き、そのまま型紙を定規にして、型紙の外郭線を包丁で裁断する。

 

 きれいで迅速な作業は、描かれた線上を切ることであるが、型紙を定規にした裁断は、型紙も一緒に切りやすく、切る線上が見がたい。また、型紙から離れた所を切りやすく、いずれにしても不正確で、きれいに切ることはできない。そして、型紙が移動すれば、大きく精度が落ちることになる。

 

 線を描いて線上を切る場合にも、型紙は正確であることが要求されるし、革上に正確な線を描かなくてはならない。細い線できれいに正確に描いた線上は切りやすい。

 

 革を裁断したら、折り込みをする部分などを漉(す)く。

 革漉きに当たって、漉き機を使うことが多いが、機械で漉けない部分があり、包丁を使う手漉きがいらない訳ではない。特に超高級仕立ての靴作りには、不可欠の操作である。

 

 手漉きの特長は、機械でできない部分を調整することである。絶対条件は漉き包丁の切れることである。

 包丁の使い方は、裏刃を上に向けて使うが、靴業界では反対に使う人が多い。原理的に矛盾しているが、間違った業界通念と言えるものである。

 

 正しい寸法の裁断、規定通りの漉き状態にしたら、次に糊を塗布して折り込みにかかる。

 

 折り込みの糊は、一次固定の糊であり、通常は接着力の弱いゴム糊でよい。

   中央より端に利くように塗る。塗布具はブラシ、筆、へらなどあるが、ブラシが汎用である。

   折り込みは、反時計回りに順次に折り、行き帰りのない折り込みが手際が良い。折り込みが重なる所は、漉き厚状態を薄めに漉く。

 

 角部の折り込み処理、外カーブの山の出し方、内カーブの切り込みの入れ方、ハンマーの叩き方など、折り込みに対するポイントは数多い。小円の内カーブ折り、切り込みの入れ方は慎重にすること。

 

 折り込んだら、貼り込み、組み立てる。

 貼り込みについての当たり付けは、被せ当たりと、目標当たりとある。正確な見地からは、被せ当たりが妥当である。

   なお、型紙上の当たり付けは、線当たりと、点穴当たりがあるが、点穴当たりが正確である。

   貼り込みの糊は、通常はゴム糊、剥離しやすい所は混合糊にする。

 

 いよいよ縫製である。

 ミシン掛けについては、ミシン調整を万全にすることが大切である。ミシンをきれいに掛けるには、正規の訓練方法に従い、練習することが望ましい。きれいな糸目を早急に狙って練習しても、悪い癖がつけば、上達はできない。

   ミシンの機構から見ても、きれいな糸目にするには、角部以外は、ミシンを止めずに、一定の速度で掛けることが大切である。特に、カーブの途中でミシンが止まるような掛け方は好ましくない。

   ミシン糸の処理も、何通りかがあり、止め位置の条件で使い分けることになる。

 

 アッパー縫製については、デザイン的には千差万別で大変に思えるが、作業の内容は限られたもので、作業順位が異なるに過ぎない。使用する道具、機械も同様なもので、特別なことはまれなことである。

   製甲だけでなく他の分野でも、外観の形状は異なるが、作業の変りは少ない。各作業の分析を十分にして訓練工程に従い、練習をすれば、外観の変化に関係なく、全ての条件に対応できるようになる。

 

 次に、トップラインの余分な裏革をさらう。

 さらいの市切りは、よく切れることが大切である。

 刃当ての角度で、切断面の状態が異なる。何回にも切らないように、一度切りにするときれいに切る事ができる。切り口はふ糊で磨くようにする。切り残す場合は位置の判断が大切である。手縫い部分のさらいは、縫い穴を切りやすいので、深切りに注意する。

 

 ひも穴のハトメ打ちについては、表ハトメは、表面の形状が崩れずきれいについて、裏にバリが出ないようにすることが大切である。裏ハトメでは、表面が平らになるようにし、革に食い込まないように打つ。

   ハトメ潰し割棒の切れ味と台座の状態に注意すること。

 

 アッパーの裏革は、一枚続きのものだけとはいかない。つぎはぎが必要であり、段差が出ることになる。

 靴に足を挿入する(履く)とき、足には力が入り、硬くなり大きくなる。この挿入する足に、引っかかる段差のないことが条件である。つまり、つぎはぎにする二枚の革のどちらを上にするかということである。

   靴を脱ぐ時、足は縮むように細くなり、靴裏の段が引っ掛かるようなことはない。昔は当然の常識であったが、今日では作業性が重視されるのか定かでないが、矛盾を感じる操作を見かける事がある。

 

 以上、製甲の手順を追いながら、各作業のポイントを見てきた。

 

 最後に、型紙作成と製甲との関係について述べる。

 昔は、製甲のベテランが型紙を作り、作成した型紙で製甲は当人が行うという状態が普通のことであった。しかし、今日では、型紙と製甲とは分離して行なうことが多い。また、昔では初心者がいきなり型紙作成に入ることはなく、型紙領域はベテランの分野であった。しかし、現状では型紙の項目として、初心者も対応する状態にある。

 

 製甲のできない者が型紙を作るということは、製甲の作業性について問題を起こしても不思議ではない。

   紙面に描いたデザイン画の型紙と、実際の革細工の製甲では異なる部分が多い。つまり、絵には描けても、実際にはできないことが多い訳である。革には厚さがあり、細工の限界があるためである。

   製甲の作業性の良否、完成規定についての精度など、型紙による影響は大きいものがあり、製甲を十分に熟知して型紙を作りたいものである。

 

 型紙は平面の二次元のものであるが、製甲は順次組み立てられるに従い、三次元の立体になってくる。対応策として製甲ミシンは腕型かポスト型の、立体に対応した形状になっている。

 

 ところで、作業台は昔から平面台だけであり、工夫をしてみたいものである。特に三次元に組み立てる時、平面台の不備を感じることがある。製甲に使用する小道具にしても、昔からのものだけでなく、より工夫した道具を加えたい。

 

 型紙と製甲の関係は以上のようなことであるが、作業には一定の基準を設けて、見比べて評価していくことが望ましい。基準のない感覚的技術の内容は、個人の頭脳内に留まるのみで、矛盾があっても第三者や初心者には判別できない。

   第三者の評価は、矛盾のあるものは見逃さないものである。

 

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、 編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

 

<引用文献>

各務房男,「アッパーの縫製について。アッパーの釣込みについて。本底の加工について」第6版4頁.

 

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない