皮革のシワについての実験方法紹介

 製靴に関してシワの問題は極めて重大であるシワにより製品の等級は左右されるし、結果として採算ペースに及ぼす影響も大きいものがある。

 しかし、ことシワについては、従来から感覚的な表現であって評価のしにくいものであった

 それは評価の対象となる比較物のないのが原因であると思われる

 もし、比較物となるようなシワの標本があれば、発生したシワの状態は、標本と比較し、標本中のどのシワと類似しているかを照合することができる

 このようにして、シワの現物、標本があれば、シワの表現は具体化され、シワの改善に対する管理技術も一歩前進することになる。

 

 標本の作り方、整理分類などの処置が合理的であるほど、活用の範囲広大し、適確性も増すので、十分に考慮して標本を作らなくてはならない。

 

 なおこの実験での一連の標本は、どのような場合にも適するとは限らない

 今後、より多くの標本が必要になると思われる。

 

標本の作り方

 対象となる標本の大きさは、現物のシワと比較しやすいことが大切で、かつシワ作りも容易にできなくはならない。また、体裁よくまとめることが好ましく、次のような形状に定めた。

 

 下記は、最も基準的な大きさ、形状であるが、シワの発生方法など条件によっては、様々な標本を作る必要もあり、すべてを同一形状にすることはできない。

 

1)縦60mm 横30mm

2)縦50mm 横25mm

 

 標本として完成した材は、上記寸法の二種類とし、材を貼り付ける台は、それより縦方に各々10mm横方に各々5mmの余分を付ける。

 大きさを二種類としたのは、皮革の大きさ、材質、シワの発生方法などによる違いに適合させる範囲を考慮したもので、どちらかを選び定めればよい。

 

 

以下、一実験例を説明する。

(圧縮シワ標本)

 試験片の大きさは、規定の(1)で縦60mm横30mmとした。

 この寸法で材を裁断したために、貼り付け台は、58.2mmになった。つまり、材を3%圧縮させると言うことである。

 

縮小率の設定

 材の縮小率を設定するには、現物のシワとの比較がしやすいように、シワのない平坦状から、シワの発生にともない、順次シワが強く出てくるような状態に、並べることが望ましい。

 このシワを作る縮小率が問題になる。

 縮小する倍率を一定にして、材に対し、シワの無い状態から順次シワの強い状態まで、一連の状態で標本を作るには、材質的に変化のあることが条件となる。

 一枚の全域から材質的変化を求めて試験片をる方法と、材質的には同一部分のものを用い、縮小させる倍率の変化によって、シワのない状態から順次シワを強く出していく方法とがあり、前者を一定倍率方法後者を変化倍率方法と言う。

 

一定倍率方法について

 一定倍率方法の縮小率設定については、革の中でシワの最も出にくい部分を縮小させていき、シワの発生が起きるか、起きないかの境界的状態での、原寸からの材の縮小%を計算する。そして、その数をその革の縮小率とする。

 全域、全方向に対し、一定倍率で縮小したシワの状態を比較する。すると、最もシワの出る部位から出ない部位までがわかる。方向性よる変化も興味深いものであるこのデータ資材裁断の重要な資料である。

 縮小率は材のにより異なるもので、材それぞれのを見て定めなくてはならない。縮小率が不適正な場合、全試験片のシワが強すぎたり、反対に試験片の一部だけにシワが出たりする。それでは、標本にならない。

 一定倍率方法では、材質の変化を求め、革の全域、全方向に対し、それぞれの状態を標本化することができる。

 

 シワの出る部位から出ない部位までを並べるとほとんどの革ではほぼ共通した部位の並び順序となっいる

 

 このような実験基づき、前記の例は3%にしたものである

 

変化倍率方法について

 この方法については、ず、一枚の革のどの部位から標本にする試験片をとるかを定めることになる。そして試験片の枚数を定める。

 試験片の枚数は、シワの状態を何段階に分類するかによる

 試験片は、それぞれの革の同部位(材質が変化しない範囲)かつ同方向でとる必要がある。

 標本の形は、すべてに同一形が望ましく、そのために縦方の裁断寸法を長くしておき、材が縮小して完成の時に切り揃える。

 

 この方法は縮小率に大小があり、測定器具が一定のものでなく変動できる装置が必要である。

 特徴は、縮小の%による変化、シワの出具合を見ながら進めることである。

 部位、方向に対して、縮率の変化にともなう値の観察ができことが重要である

 

 縮小方法は、器具を用いて材を順次圧縮するが、進行中の段階で標本を作ることもできる。部位ごとで、同様に見えるシワの縮小%を調査することも可能である。

 

 測定検査の方法で特徴があり、使い分けられる。

 

試験片の摘出と貼付

 一枚の革の中でも、部位方向によってその性質はかなりの差がある。そして、それらの差明確に示されているとは限らず、漠然としている現状である。

 このように革の材質的資料があいまいである以上、革の中の一部分に限定し出された値で、全体の部分を推測することは出来ない。従って、一定量の資料が集積されるまでは、革全体についての実験が必要である。

 

 試験片の摘出を完全にすることは、面積的には空間がないようにして全域にとり、方向については同等の革を何枚も用いて、全方向に採りたいところであるが、一般的に言って革の外郭線部分は使わないところもあり、当然にその数値の利用度も低い。

 また、各部位に対しても、隣接部分や若干の方向違いでは、その数値差は少ないと思われる。これらを考慮し、各部分については代表的な部位、方向を定めて、各試験片の間部は、隣接部を比較しその中間数を読むことにする。

 

 革の表面上に、各試験片の摘出部位、方向を定め打ち抜き刃により裁断する。

 試験片を抜いた穴には、裏から紙を貼り付け、位置を示す記号を書き入れる。

 その部から出た試験片にも同記号を付けて区分を明確にする。

 

 材の縮小にともなうシワ状が標本自体で、その状態を固定、維持しておかなくてはならない。それには変形しない板に貼り付けてくことが最も容易である。

 

 また、標本は靴上に発生したシワと比較するなど、手に持つことが多く、台座板はできるだけ小さいものが扱いやすく、一枚毎に区分してあることが望ましい。そして、台座の材質は透明のほうが、裏側も観察できるし、外観も綺麗である。

 以上の理由から、台座板には、寸法精度の保てるアクリル材を用いることにした。

 

 試験片の裏面と台座面に、水溶性の糊を塗布する。

 そして、試験片の縦方を台座の両壁に着けると、材は中央部が上がった低い丸橋のようになる。

 硝子板で丸橋状の材を押し付け、材の裏面を台座面に密着させる。そのとき硝子板を何回も上下運動し、シワ状が材面全体に均一に分散するように圧着させる(水溶性の糊は、シワを分散させる潤滑油の役目を果たす)。

 そして硝子板を押し付けたまま時間をかけ、糊が硬化した時点で硝子板を除去する。

 

 以上で一つの標本ができたことになる。

 

 実状のシワと標本とを比較して見る場合、実状のシワにる窓枠のようなものを当てて、シワ状部分だけに限定して見ると、両者の比較が容易である。

 枠の大きさは標本と同型のものを最大として、その他にも何型か作っておけば、シワの範囲によりそれぞれに見やすいものになるであろう。

 

標本の整理

 各試験片を台座上で縮小し標本化すると、次にそれらを整理し、以後の活用に備えることが必要である。

 

 各標本について区別される内容は、まずシワの強弱の差であって、最もシワの少ないものから強いもの順に並べて番号を付ける。

 シワの強弱の見方は寸法的には前記(シワ状について)のようであるが、第一段階として感覚的目測を重視することになる。

 

 選別方法は、全標本を並べておき、最もシワ状の強いものをひとつ取り出し、番号を付けて別にする。

 残りの標本の中から、その次にシワの強いものを取り出す。

 このように、順次シワの順位を定めて番号を付ける。

 何人かの平均値で標準的順位表を作る。

 

 次に、シワの段階的分類が重要である。これは、上記の通し番号と異なり、全標本の中からシワ状の近いものを集め、各ブロックとして分けるもので、何段階に分けるかが問題になる。

 

 例えば、

 

もとの材と同じように見えて、全くシワのないもの。

ごくわずかに、シワの発生が見える、気にならない程度のもの。

誰にもシワと見えるが、自然な状態でOKとされる範囲のもの

シワ状は認めるが、良否の判断に迷う範囲のもの。

シワが強く確実に問題視される状態のもの。

最も強いシワで製品上にあれば、不良品となるもの。

 

 などのように、観察する者の感により段階が定められる。

 活用については、一応の基準を設けて、評価の等級により各人それぞれに使い分ければ良い。

 

標本作りにあたり

 実験をするにたり、まず考えことは、試験片の採取部位と方向であった。

 今回の実験は一枚の革の、各部位における、同条件下のシワ発生状態の観測が目的であったので、比較検討の容易な方法として、同一直線上、または、同一角度での試験片の採取を行った。これにより各部位での性質の相違が容易に比較検討できると考えた。

 

 次に問題になったのは、シワを人工的に作り出すときの細かい操作である。

 意外に小さな試験片であっても使用する接着剤や、シワ作成時の操作の相違によって、シワの発生状態が異なる場合が生じた。

 そのためにシワ発生の操作手順を、毎回同じように繰り返す必要があった。

 また、接着剤の選定により操作時間が限定されるため、最も適した接着剤の条件として、OPENTIMEが長く、ずれ効果が大きいものが良いと考えた

 

 次に、標本とするシワ強弱の順位の定め方であるが、シワは、凹凸状態、長さ、幅、高さ、など要素がミックスされたもので、必然的に各要素同志の比較だけでは処理できない部分が出てきた。

 これに関しては主観的になることを防ぐ意味で、複数の人の平均的な意見を参考にした。

 

 標本作成後の問題としては、革自体の伸縮する性質を殺した訳ではないので、大気の変化、または老化現象等で経時と共に多少のシワの変化が認められた。

 

 上記は実際行った実験であったが、今後他にも必要な実験がある。

 

 様々な材の組み合わせを設定し、それらに、加湿、乾燥、その他、人工的処理を施し、材の変化にともな複材要素のシワの実験である。

 

 特に表革と裏材に対し、異なる条件を加えることから変化するシワの実態と、裏材の縮小にともない発生するシワを重視したい

 

 また、材をる方向に引っ張り伸張させ、後復元してくる性質に付随し発生するシワの実験も必要である。

 引っ張る力量差や、裏材に対する引っ張り差など、条件を広範囲に設定して実験すると、今後靴作りで利用できる重要資料となる。

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

  

<引用文献>

各務房男,「材質測定 皮革の皺について」,第4版55頁.

 

News

■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない