皮革のシワについて

はじめに

 歩行に対する装具の靴は、靴の中に足が入り体重がけられて、歩行にともなう形状の変化を繰り返すものである。当然に足による屈曲に対し、材面の各部にシワが発生してくる。

 

 材質や製法などにより、シワの出方は異なるが、全くシワの出ない靴などり得ないことである。

 ところが、靴に対するシワの評価は厳しく、少しのシワがあっても問題にされ、優劣の対象にされることが多い。

 しかし、シワの内容はそれぞれに性質が異なり(好ましくないシワもある)それらを一概に決め付けることは難しい。

 

 シワの内容を分析しその上で、シワに対する正しい評価をすることが望ましいことである

 また、シワを理解することは、好ましくないシワを作らないための、重要な資料である。

 

 シワの発生の問題点が解消すれば、これらを原因とする二級品、三級品も大幅に減少すると思われる。

したがって、シワについての認識を高め、内容を明確にして表現する努力が肝心である。

 

シワの定義

 平滑状となっている材面が、る条件により凹凸化し、凹凸状が目に見えてきた状態をシワまたはシワの発生と言う。

 一般に材面は平滑状のものが多いが、中には人工的に始めから凹凸状にしてある材面もあり、これらは、凹凸面材として区別して考える。

 しかし、それらの凹凸面材が、その原型より強く変化した場合は、変化した分量を前記と同様にシワの発生と見る。

 また、原型の凹凸状が消え平滑状になった場合はシワの消滅と言う。

 シワの発生、消滅については、ごく自然な環境状態で起きる場合と、人工的に材に何かの力を加えて起きる場合とに区分し、前者を自然発生、自然消滅と言い、後者を人工発生、人工消滅と言う。

 

 材面の凹凸状態をシワと言うが、凹凸状の強弱は精密な材質測定の場合を除き、通常は、肉眼、または軽度な凸レンズを通して見える範囲で考慮する。

 

シワの形状について

 材の表面の凹凸状をシワと言うが、凹凸状の凸部は、細長く小さい山状となって何通りにも並んでいる状態が多い。つまり、材を押し込んだ方向と直角状に細長く山ができるし、反対に一方に強く引くと、引かれた方向にも細長い山ができる。

 この山をシワの凸と言い、山と山の間をシワの凹と言う。

 凹凸状について、その方向を凹方、凸方と言い、その長さは凹長、凸長と言う。

 

 幅については、凹凸状をその方向に対し直角の断面図とした場合、凹凸境界線間を直線寸法で表わし凹幅、凸幅と言い、その断面の凹凸表面寸法は凹曲線、凸曲線と言う。

 高さについては、原型である平滑状材の表面の高さを基準にして、それより高い部を凸高低い部を凹低と言うが、場合によっては、低い部分を基準の0mmとして凸高だけを測り表わすこともある。

 以上、シワの状態を形状、寸法的に見たものである。

 

 シワである凹凸状は、長さ、幅、高さについても、また、何本の凹凸からできているのか、その面積的形状にも差が大きく、更に、各凹凸の間隔は必ずしも平行状に揃うとは言えない

 材のや、押し込み方、引っ張り方などによっても、一定方向に凹凸状ができるとは限らない。

 要するに、シワの形状は千差万別であって、その表現は難しく、凹凸状は非常に微妙であることと、材質が柔軟なために数量的な測定は困難なものである。

 しかし、シワの内容を放置しておくことは、問題点の解決を遅らせることになる。まず要素的に分析していくことが必要である。

 

シワの発生要因

シワの発生、つまり、材面が凹凸化することは、材の面積が小さくなろうとする動きにともない起きる現象であり、例えば、材面のる部分に向かって、材を押し込むようにした場合、徐々に材面は凹凸化してくる。

 このように面積が小さくなる動きにともない発生するシワを“圧縮シワ“という。

 反対に材を引っ張り面積が大きくなうような場合はシワの発生はない。

 ただし、これは材の中心部から全方向に対し、同等な力量で同時的に引っ張ることが条件である。そのため、力量、引っ張る順異なると、最大力量、および、始めに引っ張る方向に対して材に伸びが生じ、その直角方向には材の縮小要素が起こりシワが発生する。このようにできるシワを、”引っ張りシワ“という。

 

 材を細い丸棒に巻きつけると、内側の面にシワが発生する。これは、材の表面と裏面とに対して、外側が若干伸び、内側が縮められて起こる現象である。

 このように、材を巻き込むようにして出るシワを曲面シワと言う。

 

 以上がおもな単材要素における、シワの発生要因と種類である。

 

複材要素におけるシワについて

 革一枚の上に出る単材要素”におけるシワに対し、何枚かの材を重ね貼り合せる状態起きる“複材要素”におけるシワ分析しておかなくてはならない。

 これは、表革に対して、裏革、月型や、先芯など材が貼り付けられることで発生するシワで、靴上に出る多くのシワはこれにものである。

 この場合は、材の縮小を起こさせるものが、表革の質だけでなく、貼り合わせている他材も影響し複雑になってくる。

 この複材要素のシワが、製靴の過程で起きた場合発生要因が複雑なため作業者はその原因を認識できいない場合も多い。

 問題になるシワの解決については、要因となる状態をよく理解しておくことが大切である。

 

複材要素のおもな原因

 複材要素とは、表革に対し裏貼りする材の質が、表革と大きく異なる場合問題となる。

 たとえば、二枚貼り合せた材を自然な環境放置したとする。

 二枚のうち、裏材の縮小率が大きく強いと、表革接着面は裏革の縮小に引っ張られ、表革にシワが発生しやすくなる。

 二枚貼り合せた平面状材型が、表裏どちらかの材が大きく縮小し、反対側の材が極端に伸びるようなことが起こった場合、縮小した材の表面を内側にして、曲面状になってくる。

 このような状態について、表、裏材の関係は、縮小をともなう方材質と関連してシワが発生する。

 これらの関係は、表革の種類裏材の種類によ組み合わせ、貼り合わせに使う糊の種類、複材の貼り合せ方問題になるところある。

 表革にシワを出さないためには、表革と同等な材質を裏に用いることが有効である。

 

シワの内容を業務的に把握、管理する

 シワを表現するには、実物で示す以外、非常に難しいことである

 それを単に感覚として見るだけであっては、製靴設計業務としてシワの管理が曖昧なものとなってしまう。何らかの方法により統一した読みのできることが望まれる。

 誰が見ても同一の値であることが大切で、そのためには基準となるものを設定し、更に処理方法などについても、統一化しておかなくてはならない。

 つまり、基準となるもの、比較、対象物となるシワの標本”を作るということである。

 作成した標本群には、個々に、各々の内容を示す記号を付ける必要がある。

 現物のシワと、それに最も類似した標本を照合し、標本記号で表示することになれば、観察者による差が少なく、ほぼ同一値が得られるようになる。

 適切な標本作りにあたっては、さまざまな実状のシワと比較できるよう多くのタイプの標本を作成することが必要である。

 

(※別記「材質測定 皮革のシワについての実験方法紹介」参照)

 

製靴とシワについて

 靴を作ることは、いろいろな資材を裁断、部品化し組み合わせることである

 それは、材に対し変化を与えることであるつまり、材を縮小または伸張したり、折り曲げたりすることであって、それらの状態には絶えずシワが発生する要因をともなっている。

 特に、縮小、伸張、屈曲が部分で片寄っている場合は、極端なシワを見ることがある。それらの要因は製靴技術の未熟から発生する場合と、材質の変化を無視し資材、部品設定をおろそかにした場合に多い。

 シワのない靴を作るには、一つ一つの作業を基本通りに、無理のい状態で行なうことが大切である。

 ほとんどの製靴作業は、シワと無関係な部分は極めて少なく、シワに密接に関連し十分な注意を必要とする。

 

 例えば、靴型の形状についても関係がある。

 ある靴型でアッパー型紙を作る、型紙の展開質が材質の許容範囲を越えた場合、シワの発生原因になる。関連して、型紙作成技術の優劣の差は、シワとの関係が深い

 

 材の裁断について部位、方向などにより、材の性質が異なることを把握しておく必要がある。

 

 裁断された材にシワがある場合は、アイロンでシワを消し、以後はできる限り、材を揉まないようにする

 

 また、アッパーデザインとの関係も重要なところで、カットの少ない連結したデザインは、シワが発生しやすい。

 

 アッパー材を始め、各用材の選定については、最もシワとの関係が深く、考慮すべきところである。

 

縫製作業~つり込み作業により発生するシワ

 材の加工については、すべてがシワに関係するが、特に、縫製技術で、貼りこみ、ミシン掛けなどでシワとの関係が深い。

 例えば、二枚の材の端部を貼り合わせるとき、どちらかの材を引っ張るようにして貼り(通常は上側の材を引く)以後、引っ張られた材が復元する場合、シワを発生することになる。

 引っ張った材が厚く、かつ復元力が強い場合で、かつ、もう一つの材が薄いものであれば、極端なシワが発生してくる。

 また、薄い材にミシンを掛ける場合、ミシン糸の締めを強くしてもシワが発生することもある

 このシワは釣り込み時には消滅しても、靴型抜去後に再現してくる場合が多々見うけられる。

 

 このように材の縮小が主なる原因であるが、他にも材の縁テープをとる場合、テープの引き過ぎからシワを出すことも多い

 また、シワのある材上に、強度のある材を重ね、縫い付ける場合は、材上のシワは上の材により固定化し、伸ばすことができずシワは残ることになる。

 

 また、これらの要因に加えて、屈曲に対する内径の縮小要素が入ると、シワの発生を見る。

 例えば、アッパーの完成形は、素材を表面とした立体であるが、アッパー材を裏返しの形状として、平台のミシンで掛けるような場合は、表裏の関係が反対になりシワを発生させる原因になる。

 

 他には、アッパーに月型、先芯を入れる操作、以後の釣り込み操作についてもシワとの関係が深い。

 

 平面か曲面であるアッパーを、曲面か球面である靴型表面に密着させると、材の変化は大きく、作業が劣れば大きなシワを出すことになる

 

 二枚、三枚の材を重ねる場合には、材の厚薄、硬軟、復元力の強弱と、屈曲に対する外径、内径の寸法差を考慮し、一方だけに材を片寄って引かないように注意する。

 

 最も理想的なことは、完成したアッパー上には、一つのシワもないことであって、仮にも、以後の釣り込み操作により、シワの消滅が可能であるなどと軽く考えてはならない。

 

 釣り込み操作の引っ張りに対するシワには、消滅するものと、絶対に消えないものとがあり、仮に消えたとしても、それは靴型が存在する時だけに限ることで、靴型抜去後は再びシワが発生する場合が多い。

 

 以上、主なるところであるが、他にも、靴型の去の時期や方法、仕上げ作業から箱入れまで、製靴とシワの関係は全項目に渡り、無視することはできないものである

 シワを出さないためには、シワの発生要因を十分把握しておくことが大切である。

 

まとめ

 アッパーが靴型上に釣り込まれることは、その材は引っ張られることであり、操作が正しくなければ、シワの発生する要因となる

 

 靴が仕上げられた時点では、シワは全くないのが普通である。

 しかし、それ以後商品となり、手にとられて足を入れ、靴が屈曲する部分にはシワが現れてくる。

 これは必然的に出てくるシワで、靴の屈曲を容易にし、履き易くなるためのシワであって、好ましい部類のシワである。

 

 その他、月型、先芯部など硬化している部分にあるシワは好ましくない。

 シワの発生は材質を主体として出るものと、材の扱い方、つまり、製靴技術の優劣が問題となり出るものとがある。

 

 シワ発生要因の各事項を重視することにより、始めてシワのない良い靴作りが可能であり、単なる処置では解決できないことがわかる。

 

 なお、革面に出るシワの分析には、シワ発生要因ごとシワ出しの実験がある。

 革に対して、どのようにすればシワが出るのか」、「シワが出た場合の解消処理解消できる範囲の観察」など、このような実験調査を行なえば、これから靴を勉学する初心者でも一目瞭然、正しくシワを読むことができる。

 

 現実に起こりうる各条件を設定し、実験を行い、シワ発生の原因を明確にする必要がある。そして、多くの実験値を集積し資料化しておくことが望ましい。

 

 シワについての問題は、消費者の評価が厳しいものがある。今後のために、より多くの実験の集積が必要になると思われる。

 

 


(この文章は、各務房男が執筆した論文を、編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

  

<引用文献>

各務房男,「材質測定 皮革の皺について」,第4版55頁.

 

 

 

※皮革の縮質実験については次のページに記載

News

■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない