皮革の伸質実験について

 靴作りは革細工であり、革の特徴を活かすことが大切である。革の性質を知らずして高品質の靴の作れる道理はない。

 柔軟性に富み伸縮性もあり、外観は綺麗にして丈夫で、靴作りには最高の資材である。

 

 革は平面状に加工されたものであるが、靴型表面(靴)は立体的球状である。この平面状から立体状を作るときに、革の特性が活かされる。

 具体的には、柔軟性、伸縮性、可塑性の使い方である。

 つまり、平面状革の周辺部を、伸ばし縮める(靴型表面に釣込む)と立体状になる。

 そして、材料の可塑性が働くと、立体状がそのまま維持できることになる(靴の形になる)。

 立体を作る性質は、伸縮性と可塑性であり、この性質を知ることが大切である。

 

 ところで、革の種類は多く、一枚の革の中でも部位方向で性質が異なり、把握するのは容易ではない。そして、革質把握の重要性の認識はあっても、調査測定する習慣のないところがほとんである(タンナー、皮革試験場には測定値はあるが、強度に関するものが多く、測定の性質は上記と異なる)。

 また、測定数値が公開されても、製品を作る際の革担当技術者による数値の活用は極めて少ない。重要性の認識とは相反して、革を観察する行動はないと言える。

 

 

 ここでは“かがみ式”材質測定の中の、“伸質”について解説する。 ある靴メーカーの要望で行った実験である。

 

 革は、ソフトカーフ(黒)で、試験片は9個の設定。

 頭から背筋に一列に並べ、以後は革の半分に分布する。革の背筋から両側はDATAも対称型であり通常は片側で試験片をとる。

 

(図は16個の試験片をとった場合)

 

 試験片の引く方向は大切である。

 背筋方向を(他の部分も平行線上)X、その直角方向をY、斜線方向をZ1とZ2とした。

 特製の機器に試験片を1枚ずつセットし、4方向(合計8つ)のクランプを回して引っぱる。

 試験片の直径は100mmである。その理由は、アッパーのトウラスターにかかる部分の大きさが100mmであり、また測定が容易なためである。

 

 引っぱる力量は、2KG,4KG,6KG,8KG,10KGの5段階で、各KGで引いた状態の試験片の直径(X,Y,Z1,Z2の4方向)を測る。

 一定の速さ、一定の時間で、4方向を同時に引っぱることが大切である(数名で行う)。

 同時に4方向を引くのが、“釣込み”を意識した測定のポイントである(一般の検査方法は単方向であり釣込みとの関係は薄い)。

 

 試験片を裁断して残った革の写真を撮る。きれいに広げて、裁断跡には番号をつける。

 現物革の縦、横の寸法を測る。次に、写真革の縦横の寸法を測る。

 数値をソフトに入力する。倍率を割り出し、実際の革の面積計算が表示される(現物革の縦横寸法と革の写真があれば、革のDS測定は可能になる。革計量所に行かなくてもDS検査は可能である。) ※「面積DS計算ソフト体験リポート」参照

 

 次に革写真をデジタイザーで採点し処理し、プロッターで描かせたものが、革の見取り図である。

 革の数値表やグラフなど資料のすべては、革部位見取り図と対比して見なくてはならない。少しの部位変更でも数値変化の大きい所がある。

(プロッター出力前の画面表示)

 

 専用ソフトに、各条件で引っぱった革の測定数値をINPUTする。 

 試験片の番号を入力後、まず試験片を2KGの力で引っぱった時のX,Y,Z1,Z2の測定数値を入力する。続けて4KG、6KG、8KG、10KGまでの数値を入力する。

 同様に、他の試験片についても、全数値を入力する。

 

 

 画面にグラフを表示して、プロッターに描かせる。できたのが革伸質グラフである。

 折れ線グラフで、4方向の線が描かれる。ペンの色分けで見やすいが、同数値の所は重複する。

 試験片9個のグラフは興味深いものがある。革見取り図と照合して見る。

(プロッター出力前の画面表示)

 

 次に数値DATAを整理する。いわゆる順列処理で、伸びの少ない試験片から順次並べる。

 一般論的に、革の中で、どの部位&方向が、一番伸びるのか、または伸びないかを知ることができる。

 

 以上の操作で、試験片を採用した現物の革、革の写真と評価専用の革見取り図、試験片部位毎の伸質グラフ、数値DATAの整理集が完成する。

 

 

 さて問題はこれからである。 要するにこのDATAの使い方、活用の仕方である。

 まず資料の分析に入る。

 

 靴作りにおいて、型紙から革を裁断するときには、後の“釣込み”の作業で、引き量に対して片寄って伸びるかもしれないということを考慮しなければならない。

 つまり、革の部位で、4方向の伸び率に差の大きい部位は注意が必要である。伸び率が均等な部位は、型紙の方向性の許容は大きい。

 

 グラフの線は直線ではなく山なりの線である、小さい力量で比較的伸びるが、力量でぐんぐん伸びる物ではない。釣り込みでは、最初の力量で立体化(靴の形)を図ることが重要である。

 

 今回は可塑性の実験はないが、10KGの終了後、24時間と48時間後の測定を行った。

 完全と言えるほどに元の寸法100mmに近く戻っている。

 これは、釣込みの力量が大きく、靴型除去が早ければ靴の変形は当然に起きることを示している。

 

 革の伸方向&分量が測定で明確になった時点で、革の縦横を二つ折りにしてみると、柔らかく折れる方向性に共通点があるのがわかる。

 

 また、熱処理した場合の実験も行うのがよい。

 方法としては、10KGを測定した時点で、その革を固定する。靴型に釣込まれた状態と考える。

 そして、規定の熱処理(何度の熱を何分かけるか)を行う。

 固定台から外し、一定時間を経過(靴型除去時間を考慮)して、復元性の測定をする。これが熱処理の実験である。

 

 靴作りにおいて、表革と裏革の質差の大きいものは注意が必要である。

 表裏の革を貼り合せて、引き伸ばして釣り込み、靴型除去後に裏表どちらかの革だけに復元が出ればしわを作ることになる。

 

 縮質測定も有効であり、実施をすすめるものである。しわの発生原因が理解できると同時に、しわの活用も無いことではない。

 

 

 

(この論文は各務房男が執筆した論文を、編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

 

<引用文献>

各務房男,「製靴技術の考察 材質測定について」,第8版21頁. 

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない