手作りヒールについて

 現状でヒールを手作りするのは、趣味趣向にこだわる高級手製靴だけである。手製の木製ヒールもあるが、主として革材を積み削り上げるもので、その型状&外観作りが狙いの作業である。昔の手製婦人靴では時おり見かけたが、珍しい存在で、通常の職人では敬遠した難しい作業である。

 

 当然にその優劣は明白であり、個性をいかすサンプルのようなものである。

 革ヒールは、一枚一枚の渋革をペース釘で打ち止め、積み上げて作る。ヒールの外観とデザインは、職人の頭脳内にあり、設計図なしの、すべてを感覚的手加減で作った事を記臆している。

 

 今日、新たな発想の靴勉学者が増加して、この手製靴&手作りヒールが注目を浴びるようになってきた。一般既製品にない手作りムードでは最高の作品になる。現状の一般靴は生活必需品の工業製品であるが、それとは別個に、個人的な靴作りで、対象を“工芸的革細工”として見る靴には格好の挑戦物である。

 

 昔の感覚的技術では難しいとした手製ヒールであるが、工学的設計図を導入すると、初心者でも対応できる分野になってくる。つまり、頭脳内だけの作風でなく、パソコンを活用して、設計図化する事が、作業の容易性を増すのである。

 

 ここではその一例を説明する。

 

 本底が定着した時点からヒール設計&工作に入る。本底踵面とヒール面がつく位置を明記し図型化する。

 まず、本底のセンターラインを曲線模写器で採型し、紙面に写す。

 靴型定位置設計に入る。トウスプリングの寸法を定めて、その寸法を半径とした円を、本底先端点を芯に描く。円の下方接点と本底踏み付け点を通して延長線を引く。この線が地面線である。

 

 対応してヒールの側面図を描く。側面から見たヒールの後方線と前方線(前方線は寸胴とマクリがある)、そしてヒールの中心線を描く。地面線と踵傾斜線の交点から、各革点を結ぶ線を引く。積み革の後部と前部の材厚差が判明し、前方を削り取る傾斜の状態がわかる。

 ヒール後端の高さを、積み上げる革材の厚さで割ると積み上げる革の枚数がわかる。

 

 次にヒールを後方から見た図面を描く。この線の内外は対称型である。

 積み上げ革線を引く(ヒール後端部の横線になる)。

 

 図型化したら、これらの図面をデジタイザーに設置して採点する。ヒール側面図,各段線(中心線を含めて)の両端、ヒールの後方図面各段線を採点し、最後に踵ヒール面を採点する。データをパソコンに取り込み、プログラムソフトで処理する。

 

 後は、簡単な操作で、ヒール面の各段をプロッターに描き出す。

参考:プロッター出力した、積み上げヒール面の各段図(上)と、

靴底側面図およびヒールの設計図面(下)

 

 

 プロッターで出力した各積み革の図型通りに、積み上げ材の革を切るが、外郭の切断は糸鋸(のこ)を使用する。また、前方を傾斜の状態に削り取るには専用鉋(かんな)、検査には専用当て定規を使う。これらの道具を使う事により、初心者でもできる作業になる。

 

 各積み革面の中心部には6mm経の穴を開けるように円が描かれる。この穴に6mmの木製支柱を通しながら材面を積めば、設計図の型状を作る事ができる。

 

 中心の穴に支柱を通して材を重ね、その状態で木やすりなどを用いて段差を削り、おおむねのヒールの型状を作る。それから、一度材をばらし、そのあとで個々に積み上げ、ペースを打つ。

 

 類似品では、コルク材の積み上げヒールがある。船底型ヒール(ウェッジソール)は、また独特な型状であり、専用ソフトで処理する事になる。

 

 積み上げ材を打ち止めるペース打ちに関しては、隣り合うペースの間隔、ペースの長さ、ペースの打込み角度などに関する考慮が大切である。また、下に打ったペースの上に、次の積み上げ材を打ち止めるペースを打たないようにする事も大切であり、前打の位置を確認する定規が効果的である。

 

 腕の良い職人でも緊張した作業が、手軽にできる事は、パソコンを使う技術とそうでないものとの相違である。

 昔の感覚的技術時代は、頭脳内感覚で腕一本が自慢であったが、現代ではいかに便利な道具を使うかが重要である。どのようにしたら、きれいに迅速に容易に作れるかである。

 

 感覚的靴技術から工学的パソコンを活用する技術に変換すると、初心者や部外者にも、技術体系が理解しやすくなる。作業分析が容易となり、練習工程など組みやすく、勉学者に有利である。

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、 編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

<引用文献>

各務房男,「作業分析 雑文4 手作りヒールについて」,第10版58頁.

 

 

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない