靴の変形要因

 変形とは靴型が入っているときの靴の形に対して、靴型を抜いた後に起こる変化をいう。靴型自体が曲がっていたり、ねじれていたりしている場合、その通りに作られたものは変形とはいわない。

 

 変形には、履く前に起きる変形 と 足を入れて履くことによる変形 とがあり、その原因は明確に異なるものである。

 根本的原因として、前者は部品設計や組み立て操作など、靴作りに起因することであり、後者は靴に合わせる足の選定ミスからくるものである。

 前者は生産メーカーの未熟からくる変形であり、後者は店頭での足合わせの失敗からくる変形である。

 

履く前に起きる変形

 

 まず変形の定義は、靴型の入っている状態の靴(材料の形)に比べ、靴型を除去した後に起きる材料の移動状態と言いかえることができる。つまり、変形とは材料の伸縮、ねじれなど材料の形が維持できずに変化することで、何らかの力が材料にかかる現象である。

 

 アッパー材に関しては、釣込みの力量が強すぎると、靴型抜去後に材の復元性がはたらき縮小がおきる。引きムラがあれば、ねじれ状態になる。

 また、外部から圧迫が加われば、材料は変形する。水滴、熱処理も変形の要因になる。

 

 以上であるが、これらの性質は天然皮革では枚ごとで違うし、部分と方向による差もある。さらに銀付き、床革などでも異なり、使用材の質を測定することは省略できない重要項目である(材質測定)。

 

 ところで、材料の形を変えるには二つの異なった内容がある。

 一つは平面状の材料をどの程度曲面状にするか、また形状を維持できるかというもので、革、布、紙などはこの性質がある。丸めて円筒型を作るようなことである(曲面状変形Aと呼ぶ)。

 

 もう一つは、平面状のままで形を変える、長方形をひし形にするような状態をいう。この性質は布にはあるが革、紙には少ない。とくに紙にはこの性質はないに等しい。

 平面状での変形は、材に加える力量は大でも変化が少なく、また、変形した形状を維持するのも難しいものである(平面状変形Bと呼ぶ)。

 

 平面状の材料で球状の形体をつくり(靴型表面)維持するには、その材料にはA,Bの変形質を持ち、維持する順応性も備えていなくてはならない。そして、その使い方が大切である。

 

 靴の材料A,Bの質を、最小限にして使うことが重要である。つまり、復元性による材の移動を最小限にしたいということである。

 問題になるのはBの性質である。A,Bの性質を最小限に使い靴型表面形状を作り、靴型抜去後の材に移動のないことを考慮する。これが変形のない靴にするために重要なことである。

 

 アッパーは、中底に留められている部分とその周辺は、材が固定されて動かない。変形は中底から離れた部分に起きやすい。すなわちトップライン部分が変形しやすくなる。 

 デザインとしては、プレーンなものほど変形が強くでやすい。カットの多いものでは、型紙上の靴型表面差が少ないために、立体が作りやすく変形も起きにくい。

 靴型に合わない型紙で作ったアッパー強く引きこんだ場合は、順応性をオーバーした状態になり、靴型去後の変形が大きくなる。特に人工皮革では変形がつよく注意すること

 

 型紙の内部にある差、つまり、靴型三次元と型紙二次元の差がAとBとにあるが、Bの差が大きいと変形が大きくなることである。

 釣込みの力量が強くムラがある、また、引く方向性が斜めになると材の復元性にもムラが生じ、変形がつよく目立ってくる。

 

 月型が靴型表面に合わず、空間があると変形の元になるモールドカウンターの合否は大きく影響する。注意が必要である。

 

 先芯については、乾燥不十分の内に靴型を抜くとアッパーの引量により変形を生じることがある。

 

 中底の内踏まずに空間のある場合は、圧着機の力で変形することもある。中底が靴型底面に合わないものは変形度合いがつよい。

 

 反りの合わないシャンクも変形の要因になる。本底が合わない場合は確実に変形に関連する。とくに復元性の強いゴム製本底に注意すること。

 

 ヒールの面の凹部に空間があると、ヒール留め釘による圧で、トップラインの変形が生じやすい。

 

 靴型を抜く時期は、部品の成型経過時間、水滴の完全乾燥時間を考慮して行う。靴型の抜去が早過ぎると変形を生じてくる。

 

 履く前に起きる変形は、ひどいものでは、靴型を抜くと同時に生じはじめる。多くの場合は、時間の経過に順じて段々に変形してくる。様々な条件はあるが、変形検査は一回でなく時を経て何回にも行う必要がある。

 

 

 足を入れない場合は変形しない靴でも、履くとたちまち変形してくる場合がある。

 

 

足を入れて履くことによる変形

 

 型の寸法、型が不適正なために起こる変形である。これは、後の部品設計や組み立てでは補正のできない致命的な変形の原因である。

 

このときの変形については下記の要素がある

 

異なったタイプの足に履かれたとき

 

 足のタイプを分類すると、かなり多くのものがある。

 底面の曲がり具合、後部足長比、内踏まず部の肉つき、甲周り寸法の大小などがあり、それらの差異で靴は変形してくる。靴の方に表示が無いかぎり足を合わせて選定することはできない。このような状態で変形するとき、足よりも靴が弱ければ、靴の変形は激しく、逆に靴が強ければ、足は痛められ傷つく最悪の結果となる。

 

 足の表面型と靴の内面型が異なる場合も変形要素となる。表面対表面の差異であり識別が難しいものである。

 まず、靴の内面型(靴型表面)各部の形状寸法が、対応する足の各部の表面型寸法に対し適切かどうか、その差がどの程度になっているかを見る(ここでは詳細は省く)

 

 底面については、足と靴は完全と言える程に、合っていることが大切である。

 

 接地点について、靴の方が足より前方にある場合、靴の踏まず上り部分が体重で押され、トップラインに変形を起こす。逆の場合は歩行の蹴り出す力が逃げて疲れやすく、踵後部に圧力がかかる。

 

 

 靴型は適でも部品設計など製靴技術に欠陥があるために起こる変形もあり、接地点の問題も、靴型自体によるものと、部品設計によるものとがある。

 その他、ミスの要因は随所にあり難しいものである。 

 

 既製靴は少ない分類で多くの足に合わせようとしているために、足と靴との間には若干の無理、矛盾があるのは承知で作られている。つまり、違和感のでる限界を理解して作るものである。

 

 

 良い靴の要点をまとめてみると、足との適合に関する問題、適切な材料、形と組み立てによること、また美的要素も無視できないことである。

 良い靴における最も大切なことは、足の重視であり、それは足から出発することである。

 

 

 所感

 靴を見るときには、出来ばえを外観から見ることと、その靴と履く足との対応を見ることになる(外見による材料の良否の判別は専門家でも難しい)

 履き心地については、実際に履いてみることにより、ある程度は納得できるものである。しかし、正しくというわけにはいかない。足に感じる範囲で感覚的に判断するしかない。本来ならば、詳細は足型計測値と靴型測定値を照合してみる必要がある。

 

 今日、足型計測が盛んではあるが、足型数値は山積しても、対比してみるには何の数値もない。従って、足型数値と靴数値を比較することはできない。

 そのため、昔から変わらず、足合わせの良否は感覚的にみて定めるほかない。靴に足を入れて、前方の余裕寸法(捨て寸)と踵後方に余裕があるかをみる、甲部を手で押さえて、アッパーの張り具合をみる、踏まず部分の感触を聞くという方法である。非常に難しいことが現在も行われている。

 

 一番問題は、山積する足型計測数値無意味になっているということである。足型計測数値が靴(靴型)測定数値と対比して進めば、いつかは足合わせの技術も進歩すると思われるが、今のところそうではなく残念なことである。

 

 靴の良否の実際は内部にある。外観だけを綺麗に見せても、内容がごまかしでは頷けない。外見からでは限度があり全容は確認できない。

 靴の見方を、正規に説明するは、足型計測から靴型設計&工作、靴型表面から基本展開、型紙作成を経て、製甲、底付け、仕上げ、付帯事項、すべての内容を網羅して観察することが必要である。

 

 靴作りは昔から、個人の頭脳内技術であり、第三者には最も解りにくい形態の技術である。

 要するに、感覚的で明快な説明がし難いということであるそのためにすべての行為が、数値のない外見的な状態である。

 

 近年は足の知識、パソコン処理による足型計測など業界外部からの数値的情報も入りつつある。しかし、製靴技術が感覚的で数値と噛み合わず導入に手こずっているのが現状である。

 

 

 

(この文章は、各務房男が執筆した論文を、編集スタッフが許可を得て、要約、加筆修正したものです)

 

 

<引用文献>

各務房男,「靴の見方」,第328頁.

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■部品「先芯についての考察 」2016/01/14追加しました。

 

■2016/01/07記事追加しました。

・所感、雑文「製靴技術は、靴有史以来の感覚的靴技術から発展していない